国内で発表されてから約1年弱が経過したDJI Dock 2。しかし、ドックソリューションの普及と運用は、国内においてまだ多く進んでいないのが現状です。今回の実証実験では、この運用における最大のハードルである飛行申請・設置運用の課題を克服するため、バウンダリ行政書士法人様および株式会社Fujitaka様と協力し、実際の太陽光施設において完全無人運用が可能かどうかを検証しました。
目次
1.はじめに
1.1 太陽光施設の点検・夜間巡視における課題
太陽光施設の点検に赤外線カメラを搭載したドローンを利用することは、従来の人手に頼る方法に比べ、大幅な作業コスト削減を実現し、普及が進んでいます。
しかし、日常の定期点検においては、ドローンを飛行させる操縦者が点検の度に現場に足を運ぶ必要があり、完全な自動化には至っていませんでした。
また、太陽光施設の安全管理においては、夜間の定期的な巡視も重要な役割を担っています。しかし、従来の警備員による巡回や、固定監視カメラによる監視では、人手不足や死角の問題があり、十分な対策とは言えませんでした。
1.2 DJI Dock 2 による解決
そこで昨今注目されているのが、ドローンの定期運行・データ収集の全てを全自動で行う現場設置型ドローンポート、DJI Dock 2です。
DJI Dock 2は、ドローンの離発着、操縦、充電、そしてクラウド上への自動データ伝送を兼ね備えた画期的なソリューションです。
例えるなら、ドローンの送信機(コントローラー)であり、充電器であり、自動ファイル転送サービスでもあると言えるでしょう。
1.3 実運用に向けた課題
これほどの機能を兼ね備えているにも関わらず、DJI Dock 2の実運用は未だ広がっていません。
主にその理由は、機能面では優れていても、国内で運用するには飛行申請等のハードルが高く、なかなか運用に踏み切れないという現状があるからです。
[参考画像:国交省に飛行申請を行う際に使用するドローン情報基盤システム2.0(DIPS2.0)]
1.4 本検証の目的
そこで今回の検証では、ドローンの飛行申請のスペシャリストであるバウンダリ行政書士法人様とDock設置運用におけるエキスパートである株式会社Fujitaka様と協力し、日本国内でDJI Dock 2が実際の太陽光施設現場で運用可能であることを証明します。
そして、ドックソリューションの中でも非常に低価格帯(3~400万円程度)であるDJI Dock 2が、太陽光施設の定期点検および夜間の定期巡視を、現場の補助者なしの完全無人で行えることを実証します。
2.実証実験の準備
2.1 実証実験の場所
[参考画像:実証に使用させていただいた京都府内の太陽光施設の様子]
(施設の方および弊社の代理店様である株式会社Fujitaka様の協力の元、実証期間中お借りできました。)
今回の実証場所は、所有者様の自宅からかなり離れた山奥の遠い場所であるため、遠隔点検および夜間巡視が実現できれば大幅なコストカットに繋がります。敷地面積は約18,000平方メートルあり、かなり広い太陽光施設で検証させていただくことができました。
また実証場所の太陽光施設の周りにはフェンスが設置されており、簡単に人が入れない敷地となっておりました。
[参考画像:周りのフェンスの様子]
2.2 使用機材の詳細
今回の実証実験では、以下の機材を連携させることで、太陽光発電施設の定期点検・夜間巡視を現場において完全無人化しました。
■ DJI Dock 2(ドローンポート)
DJI Dock 2は、ドローンの離着陸、充電、メンテナンス、操縦、データアップロード全てを担う現場設置型のドローンポートです。
主な特長
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▸製品スペックの詳細はコチラ
■ Matrice 3TD(赤外線カメラ搭載型ドローン)
Matrice 3TDは、DJI Dock 2と連携して使用する高性能な点検用ドローンです。
主な特長
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▸製品スペックの詳細はコチラ
■ FlightHub 2(クラウド管理ソフトウェア)
FlightHub 2は、DJIのクラウドベースのドローン運用管理プラットフォームです。
主な特長
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▸製品詳細はコチラ
[参考映像:FlightHub 2での飛行ルート作成の様子]
■ スターリンク(衛星インターネットサービス)
スターリンクは、スペースXが提供する衛星インターネットサービスです。
画像引用元:https://www.starlink.com/jp/roam
主な特長
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本実証実験における役割
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■ 各機材の連携
[参考画像:各機材の連携図]
▼連携の流れ
1 | 遠隔地(各地)でのPCからFlightHub 2で飛行計画を作成し、スターリンクのインターネット接続によりDJI Dock 2に送信します。 |
2 |
現場のDJI Dock 2は、受信した飛行計画に基づき、Matrice 3TDを自動で離陸させ、ミッションを実行します。 |
3 | Matrice 3TDは、飛行中の映像データをリアルタイムでDock 2を介してFlightHub 2上に送信します。 |
4 | 遠隔地よりFlightHub 2にアクセスすることで、Matrice 3TDの映像確認や操縦ができます。 |
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Matrice 3TDが飛行計画を終えてDock 2に着陸したあと、収集したデータはDock 2を介してFlightHub 2上にアップロードされます。 |
6 |
遠隔地よりFlightHub 2にアクセスすることで、アップロードされたデータを確認およびダウンロードできます。 |
2.3 運用準備および設置工事について
■ 飛行申請について
航空法の規制対象となる空域や方法で飛行する「特定飛行」の場合は、国土交通省への飛行許可・承認申請が必要です。
今回は「補助者を配置しない、夜間における目視外飛行」という非常に難易度が高い”国内初”の飛行事例となります。
・高難易度の個別申請:
今回の実証実験では、定期的な飛行を想定し年単位で許可・承認を取得する個別申請を行いました。
ドローン関連許認可において国内トップクラスの申請実績を誇るバウンダリ行政書士法人様の協力のもと、大阪航空局への申請手続きを進め、無事に許可・承認を取得することができました。
バウンダリ行政書士法人 佐々木様より
夜間飛行や目視外飛行に加えて、補助者を配置しないといった規制内容が重複するドローンの運用は、
許可・承認を得るために必要な安全•適合性を考慮した運用体制など、高度で複雑な要件を提示しながら申請手続きを行う必要があります。
バウンダリ行政書士法人はドローン法務のプロフェッショナルとして、このような複雑で高難易度な飛行申請については独自マニュアルも作成するなど、
許可•承認の取得まで全面サポートしております。ドローン事業者さまは、是非お気軽にお問い合わせください!
▸バウンダリ行政書士法人様のHPはコチラ
■ DJI Dock 2設置について
DJI Dock 2は、屋外での長期的な運用を想定した設計ですが、より安定した運用を行うために、以下の点に注意した設置工事が必要です。
・水平接地: 設置場所は水平を保ち、安定した基盤の上に接地する必要があります。
・防水対策: 電源ケーブルやLANケーブルは、防水加工を施すか、防水ボックス内に収納するなどの対策が必要です。
・漏電対策: 漏電ブレーカーを設置し、感電や火災を防ぐ必要があります。
[参考画像:現地で設置したDock 2]
以上のようにDJI Dock 2を設置するには、専門的な知識と技術が必要となるため、電気工事の有資格者による施工をおすすめします。
株式会社Fujitaka 竹鼻様より
DJI Dock 2を始めとするドックソリューションは設置や運用にはさまざまな専門知識が必要となります。株式会社Fujitakaでは、DJI Dock 2の販売および設置から運用サポートまで日本全国でご対応しております。是非お気軽にお問い合わせくださいませ。
弊社の代理店である株式会社Fujitaka様はDJI産業機の正規販売代理店であるので、DJI Dock 2以外のDJI産業機の販売・運用サポートにつきましても是非お問い合わせくださいますと幸いです。
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DJI Dock 2の実運用においては、飛行申請や設置工事が大きな課題となります。
今回の実証実験では、バウンダリ行政書士法人様および株式会社Fujitaka様のご協力のもと、これらの課題を解決し、現場での完全無人運用の実現に至りました。
DJI Dock 2の導入をご検討の際は、飛行申請に関するご相談はバウンダリ行政書士法人様へ、設置工事や運用方法に関するご相談は株式会社Fujitaka様へお問い合わせいただけますと幸いです。
3.実証実験の内容および結果
3.1 太陽光点検および夜間巡視のスケジュール
1/18(土)~1/27(月)の10日間、毎日3フライト定期運行をいたしました。
内訳としては、以下の2種類のルート(飛行時間:約7分)を作成し、飛行しました。
■ 午前10時~、午後2時~:太陽光パネル点検及び施設巡回用ミッション
[参考画像:FlightHub 2でのウェイポイントミッション作成画面]
事前にMavic 3 Enterprise(写真測量用ドローン)で撮影して解析をした3Dデータをもとに、飛行ルートを作成することで、各ウェイポイントごとでのズームカメラでの画角もプレビューで確認できるので、従来のウェイポイント作成よりも格段に直感的でわかりやすいです。
[参考画像:ウェイポイント(画像では26)でのドローンのズームカメラのプレビュー画面]
■ 午後22時~:夜間巡回用ミッション
[参考画像:夜間巡視ミッションでは少し高度を上げて全体の様子がわかるように設定しました。]
■ 飛行スケジュール設定
[参考画像:FlightHub 2飛行計画の設定画面]
どのフライトでも基本は動画撮影のみでしたが、一部動画だけでなく写真も同時に撮影するルートを設定したフライトもありました。
定期運行をスケジュールした後で、「やっぱり次は違うルートを飛行してほしい!」となった場合でも柔軟に変更できる仕様となっております。
■ 定期運行中の操作に関して
飛行中のドローンの機体状況の確認、および遠隔操縦等は現場から15㎞以上離れたオフィスから株式会社Fujitaka様によって行われました。
飛行中のドローン映像のモニタリングは、現場から500km以上離れたオフィスからシステムファイブが行いました。
これらの操作に関しては、全てFlightHub 2によって行い、インターネット回線によって現場のDock 2にアクセスしているため、理論上、どこにいてもFlightHub 2にアクセスできればこれらの操作が可能でございます。
3.2 定期点検と夜間巡視の具体的な実施内容および結果
定期飛行中は常に遠隔でFlightHub 2上でモニタリングしている状態での運用となりました。
■ 昼間の定期点検運行について
昼間のパネル点検飛行では、リアルタイムで赤外線映像のカラーパレットの変更を行う事ができ、ホットスポットの確認がFlightHub 2上で確認できました。
[参考映像:昼間の定期点検運行の様子(製作:株式会社Fujitaka様)]
従来のドローン点検においても、送信機の画面で同様の映像を確認することができたのですが、同じ映像を現場から500km以上離れた弊社オフィス内のPC上で確認でき、遅延も約0.5秒程度で非常にラグが少なく確認できました。
飛行が終わってドローンがドックに戻ってくる度に写真・動画データがFlightHub 2上にアップロードされ、ホットスポットにマーキングすることができます。
[参考映像:ホットスポットの位置を共有する方法]
このマーキング済みの画像はFlightHub 2の同じプロジェクトに入っているメンバーなら誰でもダウンロードすることが可能であり、またメンバーでなくてもQRコードやリンクを発行して共有することができるので、異常可能性箇所を共有するのに非常に有用です。
■ 夜間の巡視飛行について
夜間の巡視飛行においては、不審者や鳥獣等を発見したとき、その度に定期飛行を遠隔で停止させてFlightHub 2による操縦に切り替えることで、対象物の完全遠隔監視を実現いたしました。
[参考映像:夜間の定期巡回運行の様子]
今回の実証では、午後22時~の定期運行にて可視光カメラでは暗くて確認することのできない鹿の群れを赤外線カメラによって発見することができました。
[参考映像:鹿発見時の映像]
3.3 分析と考察
従来手法との比較
従来のドローンによる定期点検では、作業員が現場へ赴き、手動で点検飛行を実施した後、撮影データをドローンのSDカードから抜き出し、PCで内容を確認する必要がありました。
また、点検前にはドローンのバッテリー充電や機材の準備が必要となり、これらの作業を含めると、1つの現場での点検作業には少なくとも半日を要しておりました。
一方、DJI Dock 2を活用することで、バッテリー充電・定期飛行・データ転送を完全自動化することが
可能となります。また、点検飛行の実施、リアルタイム映像の確認、撮影データの確認は、遠隔地から複数人で分業して行うことができるため、1人当たりの作業負担は大幅に軽減され、作業時間も数十分程度に短縮されます。
さらに、この運用方法は、Dock 2を設置した複数の現場に対しても適用可能であり、移動コストや時間コストの削減効果は非常に大きなものとなります。
夜間巡視飛行をやってみて
従来の太陽光施設における夜間巡回では、1人の警備員が1時間に約5,000平方メートルを巡回する必要がありました。この方法では、広大な敷地をカバーするために多くの警備員を配置する必要があり、人的リソースの負担が大きくなります。また、固定監視カメラは死角が多く、カメラが設置されていない場所の監視が不十分でした。
DJI Dock 2を運用することで、飛行時間7分で約18,000平方メートルの範囲を監視することができ、同じ広さを巡回するのに必要な時間を大幅に短縮しました。さらに、怪しいところはドローン操縦の途中介入により完璧な監視が実現可能です。
また、赤外線カメラを搭載したMatrice 3TDにより、夜間でも鮮明な映像をリアルタイムで距離関係なく複数人同時に確認できるため、不審者発見時の対応も迅速に行うことが可能となります。
3.4 配信イベント(1/24)の様子
定期運行期間内の1月24日に株式会社Fujitaka様主催でGoogle meetによるオンライン配信イベントが行われました。もちろん定期運行の合間にも、飛行計画を設定すれば追加で飛行することは可能であり、当日はデモ用の別ルートを飛行いたしました。イベントの様子をご覧ください。
[参考映像:2024/1/25 Fujitaka様 配信イベントの様子]
当日の視聴者数は30人以上を超えており、大変にぎわったイベントとなりました。イベントの詳細が気になる方は、是非株式会社Fujitaka様にお問い合わせいただけますと幸いです。
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4.総括
4.1 DJI Dock 2を活用した無人運用の可能性(他業種や他用途での展開)
DJI Dock 2は、その自動運用と高い柔軟性によって、太陽光施設以外の多くの分野でも有効なソリューションとなり得ます。特に、Matrice 3TDといった赤外線カメラ搭載型ドローンを組み合わせることで、さらなる効果が期待されます。今回の実証実験では、現場に完全に人がいない状態での運用が実現されました。これにより、以下の用途での展開も期待されます。
インフラ設備点検・構造物検査
インフラ設備や橋梁、高層ビルなどの構造物の定期点検・検査は、安全性と効率性の向上が求められる重要な作業です。従来の方法では、点検作業員が現地に赴き、高所や危険な場所での作業を行う必要がありました。
「画像:インフラ設備点検・構造物検査の様子」
DJI Dock 2とMatrice 3TDを活用することで、ドローンが自動で高精度なデータを収集し、構造物の内部の温度変化や異常可能性箇所を詳細に検出できます。これにより、点検時間を大幅に短縮し、作業員の安全性を確保することができます。さらに、点検の度に現場に人が行かずとも完全にリモートで運用できる可能性が今後期待されます。
自然災害対応
自然災害が発生した際の迅速な対応は、被害を最小限に抑えるために非常に重要です。DJI Dock 2とMatrice 3TDを活用することで、災害現場の状況をFlightHub 2でリアルタイムで把握し、必要な支援を的確に行うことができます。
「画像:災害現場での活用」
例えば、洪水や地震の際には、赤外線カメラを搭載したドローンが被災地を飛行し、被害状況を撮影・自動データ送信することで、救助活動や復旧作業の計画立案に役立ちます。また、夜間や悪天候時でも赤外線カメラを使用することで有効な情報を収集することができます。(今回の実証実験では、現場に人がいない状態での雨での運用も実証しました。)
4.2 Dock 2の完全無人運用における懸念点
今回の実証実験では、DJI Dock 2を使用して夜間を含む完全無人運用が可能であることを証明しましたが、いくつかの懸念点も浮き彫りになりました。
太陽光パネルの異常可能性箇所が発見された場合、現場に赴いて修理・メンテナンスを行う必要があります。また、Dock 2やMatrice 3TD自体のハードウェアの点検も必要不可欠であり、定期的なメンテナンスが求められます。DJIはDock 2の点検を半年に一度推奨しており、最低でも数か月に一度のペースで現地に行く必要があります。
とはいえ、国内ではまだドックソリューションの普及が進んでいない現状がありますが、今回の実証実験がドックソリューション実運用のきっかけとなり、さらなる進展を期待しています。
DJI Dock 2の現場における無人運用の将来性は高く、今後も継続的な検証と改善を通じて、効率性と安全性が向上することで、より国内での一般普及が現実的になります。この革新的なソリューションが、さまざまな分野での運用に役立つことを願います。